「週休3日制」の導入で給料は減る?メリット・デメリットは?政府データを基に確認してみよう

2021年6月に閣議決定された、いわゆる「骨太の方針」には多様な働き方の導入・推進が盛り込まれています。そのひとつが「選択的週休3日制」。

この制度の導入が推奨される背景にはどのような状況があるのでしょうか。また、目的は何でしょうか。

本稿では、選択的週休3日制を概観した上で、そのメリットとデメリットをわかりやすく解説します。

選択的週休3日制とは

選択的週休3日制とは、「希望する就労者に、企業が一週間に3日の休日を付与する制度」のことです *1:p.2。

では、この制度の導入が推奨される背景とはどのようなものでしょうか。

導入推進の背景1:労働時間

日本人は働きすぎだと言われますが、本当にそうなのでしょうか。

その実態を探ってみましょう。

OECD(経済協力開発機構)が2020年にまとめた生活時間の国際比較データがあります(図1)。

図1  男女別に見た生活時間(週全体平均、1日当たり、国際比較)
出典:*2-2 男女共同参画局(2020)「男女共同参画白書 令和2年版:図表1」
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r02/zentai/html/zuhyo/zuhyo01-c01-01.html

これは15~64歳の男女を対象にしたものですが、このデータによると、有償労働時間が長いのは日本男性(452分)、韓国男性(419分)、カナダ男性(341分)です *2-1。

ちなみに、有償労働時間のOECD平均は,女性218分,男性317分です。

有償労働時間と無償労働時間の合計では、日本は男女とも最長で、時間的にはすでに限界まで労働していると指摘されています。

また、どの国も有償労働時間は女性より男性の方が長いのですが、男女比(女性を1とした場合の

男性の倍率)が大きいのは、1.7倍の日本・イタリア、1.6倍のニュージーランドです。

一方、無償の労働時間はどの国も女性の方が長く、男女比(男性を1とした場合の女性の比率)が大きいのは、5.5倍の日本、4.4倍の韓国、2.3倍のイタリアとなっています。

以上のことから、日本人の労働時間は男女ともに国際的にみて長く、男性は有償労働(仕事)に、女性は無償労働(家事・育児)に極端に偏っていることがわかります。

導入推進の背景2:労働者の休日

次に、休日についてみてみましょう(表1)。

表1  年間休日数

出典:*3 独立行政法人 労働政策研究・研修機構(2019)「データブック国際労働比較2019:第6-4表 年間休日数」
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/databook/2019/06/d2019_T6-04.pdf

この表から、日本は「週休以外の休日」(祝日とその振替日)は比較国中最も多いのに対して、年次有給休暇は最も少ないことがわかります。

つまり、定められた休日が多い反面、自由に取得することができる休日は少ないのです。

導入推進の背景3:コロナ禍による意識の変化

背景の最後として、コロナ禍によるワークライフバランスに関する意識の変化をみたいと思います(図2)。

図2 コロナ禍におけるワークライフバランスに関する意識の変化
出典:*4 内閣府(2020)「新型コロナウイルス感染症の影響下における 生活意識・行動の変化に関する調査」 p.10
https://www5.cao.go.jp/keizai2/manzoku/pdf/shiryo2.pdf

コロナウイルス感染拡大前に比べて、「生活を重視するように変化」という回答が全体の50%、次いで「変化はない」が40%、「仕事を重要するように変化」はわずか5%です。

「生活を重視するように変化」と回答したのは、特に20歳代、30歳代の若年層でした。

ここで、これまでみてきた3つの背景をまとめると、以下のようになります。

日本人の労働時間は男女ともに限界といえるほど長く、男性は有償労働(仕事)に、女性は無償労働(家庭での労働)に極端に偏っています。

また、自由に取得できる休日が少ない一方で、20代、30代の若い労働者はコロナ禍によって仕事より生活重視へと意識が変化しています。

選択的週休3日制を推進する背景には、こうした状況があることを押さえておきましょう。

選択的週休3日制のメリット

では、選択的週休3日制はこれまでみてきたような状況をどのように変化させ得るのでしょうか。

雇用者にとってのメリット

まず、雇用者にとってのメリットは、余暇が増えることによってさまざまな取り組みが可能になることです *5:p.23。

例えば、育児や介護、ボランティア活動などに取り組み、生活面を充実させること。

あるいは、リカレント教育を受けたり、地方での兼業や副業に取り組んだりすることもできます。

その結果、ワークライフバランスが好転し、人々のライフスタイルにも質的な変化がもたらされることが期待できます。

企業側のメリット

企業にもたらされるメリットもさまざまです *6。

まず、労働生産性の向上が挙げられます。現行の週休2日制では5日間連続して勤務するため、週末に近づくと心身の疲労によって労働生産性は低下してしまいます。

しかし、例えば水曜日を第3の休日にすれば、連続勤務日数はその前後とも2日間だけなので、心身ともにリフレッシュした状態で働くことが可能となり、労働生産性の向上につながるでしょう。

また、先ほどみたように、雇用者のリカレント教育が推進されれば、それが労働者のスキルを向上させ、それによっても生産性がアップします。

その結果、従業員の勤労意欲や満足度も高まることが期待できます。

さらに、従来5日間で回していた業務を4日間で回すとなると、企業としてはITの活用状況の見直しやワークシェアリングの導入などを真剣に検討せざるを得なくなり、それがさらなる生産性向上をもたらします。

この他にも、多様な働き方を認めることによって優秀な人材を確保することができますし、企業ブランドのイメージアップを図ることもできます。

経済的効果

最後は経済的効果です。余暇時間の増加は消費拡大効果をもたらすと言われています *6。

経済産業省と国土交通省の試算では、有給休暇をすべて取得した場合の経済波及効果は11.8兆円で、これによって新たに創出される雇用は148万人と推計されています *7:p.2。

有給休暇は1年の上限が20日ですから *8:p.1、もし週休3日制にしたら、より大きな経済効果が見込めそうです。

ただし、実際にはそうともいい切れません。

なぜなら、上述の試算は有給休暇を対象にしたものでしたが、選択的週休3日制では、労働時間の減少に伴って給与が減る可能性があり、そうなった場合には逆に個人消費が冷え込むおそれがあるからです。

選択的週休3日制のデメリット

次に、選択的週休3日制のデメリットについてみていきます。

雇用者にとってのデメリット

まず、雇用者側から考えてみましょう。

選択的週休3日制を導入している企業には、労働時間を維持する企業も労働時間を減少させる企業もあり、後者の場合、それが給与の減少につながるケースもあります。

また、週当たりの労働時間を維持する場合には、休みが増えた分、1日の労働時間が増加することになり、長時間労働を強いられることになります。

さらに、選択の余地なく強制的に休みを増やし、労働時間を減少させて給与を下げようとする企業がないともいえません。

財界への影響

次に、財界への影響として、企業間格差が拡がることが懸念されます。

こうした制度を導入できるのは、余裕のある企業です。すると、余裕のある企業はそのことによってますます優秀な人材を確保することができるようになり、導入したくてもそれだけの余裕がない企業との間で格差が拡がるおそれがあります。

選択的週休3日制の現状と事例

選択的週休3日制はどの程度、導入が進んでいるのでしょうか。

2020年に月1回以上週休3日制を導入していた企業の割合はわずか8.3%にすぎませんでした *9:p.2。

ここで、導入している企業の取り組み事例をみていきましょう。

取り組み事例

選択的週休3日制を導入する際、先ほどみたように、労働時間をどう設定するかは、雇用者の給与や1日当たりの労働時間と関連する大きな問題です。

労働時間の設定タイプ別に取り組み事例をみてみましょう。

1.1日の労働時間増加、給与水準維持型

ユニクロは地域正社員(地域で働く転勤のない限定正社員)を対象に、選択的週休3日制を導入しています *10。
労働時間は、「1日10時間×土日を含む週4日」の勤務で、通常のフルタイム勤務(8時間×5日=週40時間)と同額の給与が支給されます。
休日は週に3日、平日に取得することになっています。

ナレッジソサエティは週休4日制を導入していますが、週40時間制は変えずに、1日あたり13時間(残りの1時間は調整)の勤務を3日間行います。ただし、必ずしも3日間連続で長時間勤務をするというわけではありません *11。
1週間のうち足りない4時間×4週の16時間は、月のどこかで1日勤務+残業で消化することになっていて、160時間を超えた勤務については残業代が支給されます。

2.1日の労働時間維持、給与減少型

みずほフィナンシャルグループは、希望する社員が週休3日あるいは4日で働ける制度を導入しています *12。
1日の労働時間を維持するため、給与は週休3日が従来の8割、週休4日の場合には6割にまで減少します。

3.勤務時間の減少、給与水準維持型

日本マイクロソフトは、2019年8月に、その月のすべての金曜日を休業日として全オフィスを閉じるというチャレンジをし、その際、全社員は特別有給休暇を取得しました *13。

それと同時に、就業日には会議設定は30分以内にし、会議の多くをオンラインで行い、できるだけ会議を招集しないでチャットですませるという取り組みをしました。

その結果、前年同月比で、就業日数は25.4%減、印刷枚数58.7%減、電力消費量23.1%減と、経費節減に成功したということです。
また、この取り組みを評価する社員の割合は92.1%に上ったことが報告されています。

わりに

選択的週休3日制はまだ一部の企業にしか導入されていません。

今後は、この制度がどのような条件下なら成功するのか、事例を分析し、よりよい取り組みを模索していく必要があります。

最後に、この制度を活用する際の留意点について考えてみましょう。

先ほどみたように、この制度にはさまざまな実施形態があります。

活用を検討する際には、所属企業の実施形態を分析し、メリットとデメリットを把握した上での判断が大切です。

また、取得した休暇をどう活用するかは、現在の状況だけではなく、ライフプランも含めた長期的ビジョンに立って検討する必要があるでしょう。


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【エビデンス】
*1 自由民主党(2021)「選択的週休3日制」による社会発展の促進
*2-1 男女共同参画局(2020)「男女共同参画白書 令和2年版:コラム1 生活時間の国際比較
*2-2 男女共同参画局(2020)「男女共同参画白書 令和2年版:図表1 男女別に見た生活時間(週全体平均)(1日当たり、国際比較)
*3 独立行政法人 労働政策研究・研修機構(2019)「データブック国際労働比較2019:第6-4表 年間休日数
*4 内閣府(2020)「新型コロナウイルス感染症の影響下における 生活意識・行動の変化に関する調査
*5 内閣府(2021)「経済財政運営と改革の基本方針 2021 日本の未来を拓く4つの原動力 ~グリーン、デジタル、活力ある地方創り、少子化対策~
*6独立行政法人経済産業研究所「「休3日制」導入による経済・社会変革を
*7 経済産業省・国土交通省(2012)「休暇制度のあり方と経済社会への影響に関する調査研究委員会報告書
*8 厚生労働省「年次年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています
*9 厚生労働省(2020)「令和2年就労条件総合調査 結果の概況:1.労働時間制度」 
*10 ユニクロ(UNIQLO)「地域正社員 中途採用情報
*11 ナレッジソサエティ「採用情報
*12 日本経済新聞(2020)「みずほが週休3~4日制 希望者、自分磨く時間に」(2020年10月7日)
*13 日本マイクロソフト(2019)「「週勤 4 日 & 週休 3 日」を柱とする自社実践プロジェクト「ワークライフチョイス チャレンジ 2019 夏」の 効果測定結果を公開


【著者】横内 美保子(よこうち みほこ)
慶應義塾大学卒業、名古屋大学大学院文学研究科博士後期課程満期退学、博士(文学)。元大学教授。大学における「ビジネス・ジャパニーズ」クラス、厚生労働省「外国人就労・定着支援研修」、文化庁「『生活者としての外国人』のための日本語教育事業」、セイコーエプソンにおける外国人社員研修などを通して外国人労働者への支援に取り組む。
Webライターとしては、主にエコロジー、ビジネス、社会問題に関連したテーマで執筆、関連企業に寄稿している。

Twitter:@mibogon