退職することは会社にいつ言うべき?転職活動時の注意点を弁護士が解説

「退職することを言い出しづらい」
「いつ上司に退職を伝えればよいのかわからない」

転職をする際には、今勤めている会社に退職する旨を伝えなければなりません。
後ろ向きな話をするのが億劫になる気持ちもわかりますが、いつかは退職を伝える必要があります。

それでは、具体的にいつ会社に退職を伝えればよいのでしょうか?
退職通知のタイミングに関する民法のルールはあるものの、それ以外にも様々な事情を考慮して判断しなければなりません。

今回は、転職を目指すに当たって、会社に退職を伝えるタイミングを、様々な観点から検討してみたいと思います。

退職通知に関する民法のルール

従業員側から雇用契約を終了させる場合、民法のルールに従って解約・解除の手続きを行う必要があります。

期間の定めがある雇用契約の場合|期間満了時orやむを得ない事由

雇用契約は、期間の定めがあるものと、期間の定めがないものの2種類に大別され、それぞれ契約終了に関するルールが異なります。

期間の定めがある雇用契約(契約社員)の場合、原則として契約期間が満了するタイミングでなければ、従業員から雇用契約を終了させることができません。

一般的には、契約期間満了の1~2か月程度前に、会社と従業員の間で契約更新に関する話し合いの機会が持たれます。
もし従業員が退職を希望する場合には、その話し合いの場において、雇用契約を更新せずに退職する旨を伝えるのがよいでしょう。

ただし例外的に、やむを得ない事由がある場合には、従業員は直ちに雇用契約を解除できるとされています(民法628条)。

<やむを得ない事由の例>
・心身の障害、疾病
・親族の介護
・違法な業務を命じられたこと
など

また、雇用期間が5年を超え、またはその終期が不確定である場合には、従業員は勤続5年経過以降、2週間前の通知によって雇用契約を解約できます(民法626条1項、2項)。

期間の定めがない雇用契約の場合|2週間前の通知

いわゆる「正社員」については、会社との間で、期間の定めのない雇用契約を締結しています。

期間の定めのない雇用契約については、従業員は2週間前に会社へ通知を行うことにより、いつでも解約することが可能です(民法627条1項)。

就業規則で退職通知期間や退職条件を定めることの有効性

各会社の就業規則では、従業員側による退職通知のタイミングを、民法の規定よりも前倒しする形で定めているケースが多いようです。
また、引継ぎの完了を退職条件としている会社もしばしば見受けられます。

(例)
「従業員が当社を退職することを希望する場合には、退職日の3か月以上前に当社に対して退職希望の意思表示を行い、退職日までに当社の指示に従って引継ぎ作業を行わなければならない」

しかし、従業員には職業選択の自由が認められていることから、民法627条1項を強行規定と解する見解が、裁判例・学説上多数を占めています(東京地裁昭和51年10月29日判決等)。
この見解に従うと、民法の規定よりも退職通知のタイミングを前倒ししたり、引継ぎなどを退職の条件にしたりする就業規則の規定は、無効となる可能性があります。

実際には、いつ会社に退職を伝えるのがよい?

民法の規定は上記のとおりですが、実際に会社に対していつ退職を伝えるべきかについては、他にも様々な事情を考慮して決定すべきです。

「民法で決まっているから、2週間前に通知すればいい」というわけではなく、できるだけ会社に迷惑をかけず、かつ従業員自身にとっても不利にならないタイミングで、会社に退職を伝えるのがよいでしょう。

円滑な引継ぎのためには、ある程度前もって退職を伝えるべき

従業員が1人退職すると、会社は退職によって抜けた穴を埋めなければなりません。

新規採用には時間がかかりますし、配置転換で埋め合わせるにしても、業務の引継ぎが必要になります。
一般的には、2週間前ぎりぎりになって会社に退職を伝えると、引継ぎ等が間に合わずに、同じ部署の上司や同僚に大きな負担をかけてしまうケースが多くなります。

円滑に業務の引継ぎを行うためには、ある程度の時間的な余裕を持って、会社に退職を知らせることが望ましいでしょう。
業務の内容にもよりますが、退職日から1~2か月程度前には、退職を伝えておくことをお勧めいたします。

もちろん、健康上の理由や、パワハラの被害を受けているなどの事情があるならば、上記の限りではありません。
これらの場合には、法律の規定に従って、粛々と速やかに休職・退職の手続きを取りましょう。

転職先が決まってから退職を伝えることが望ましい

転職を前提として会社を退職する場合には、転職先から内定をもらってから、会社に退職を伝えるのがよいでしょう。

転職先が決まっていないのに会社を退職すると、無職の空白期間が生じ、収入が途絶えてしまいます。
「早く転職先を決めなければならない」という焦りは、転職活動にも悪影響を与える可能性もあります。

一度会社に対して退職の意思を伝え、会社がそれを承諾した場合、原則として退職の意思表示を撤回することはできません。
ご自身の立場を不安定なものにしないためにも、転職を前提とした退職については、転職先が決まってから会社に伝えることをお勧めいたします。

会社への相談時期は、退職直前の有給消化も踏まえて決める

会社を退職する場合、有給休暇の消化についての調整も発生します。
具体的には、

「いつまで仕事をするか」
「いつ正式に退職するか」

の2点を、有給休暇の残日数や取得方法などを踏まえて、会社と相談して決めなければなりません。
特に、有給休暇がかなりの日数残っている場合、どのように有給休暇を消化するかが問題になり得ます。

有給休暇の買い取りを行っている会社であれば、残日数を会社に買い取ってもらえば、大きな問題は生じません。

しかし、有給休暇の買い取りは、あくまでも会社が任意に設ける制度ですので、買い取りを認めてもらえないケースも多いのです。
その場合は、有給休暇をすべて消化できるように、退職日から逆算した時間的余裕を持って、会社に退職を伝えるのが望ましいでしょう。

まとめ

正社員の方であれば、原則として2週間前に会社に通知することにより、いつでも会社を退職することができます。

しかし、退職の旨を会社に通知するタイミングは、民法のルールのみならず、

  • 引継ぎ
  • 転職活動の状況
  • 有給休暇の消化

など、様々な事情を総合的に考慮して決定すべきです。

スムーズな転職を実現するためには、状況が許す限り、ある程度前もって会社に退職の意思表示を行い、円満退職を目指すことをお勧めいたします。
他にも、ご自身の経済状況や健康状態などを勘案して、会社に対する退職通知のタイミングを適切にご判断ください。


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【著者】阿部 由羅
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。
HP:https://abeyura.com/
Twitter:@abeyuralaw