加齢にともない、肉体が衰えるのは避けられないことです。そして、肉体の衰えにともなうパフォーマンス低下は、当然のことながら仕事にも影響します。
実際、45歳から65歳までの職務遂行能力の変化に関する調査では、どの職種でも「年齢に伴い能力も上がるが、ある年齢以降は低下する」が2割前後となっています。
そして、技能工、採掘・製造・建設作業及び労務作業者では、
「年齢に伴い能力も上がるが、ある年齢以降は低下する」
「年齢とともに能力は下がる」
の割合がほかの職種に比べて若干高くなっています*1。
しかしながら、どのような職種でも加齢をものともせず若い頃と同じように働ける人もいれば、肉体的なツラさを訴える人もいます。この差は一体どこから生じるのでしょうか。
今回は、加齢にともない身体機能がどのように変化するかに迫り、仕事をするうえで特に影響が出やすい能力、そして体力・パフォーマンス維持のために取り組むべきことを解説します。
加齢にともなう身体機能の変化と仕事への影響が特に出やすい機能
最初に、加齢にともない身体の機能がどのように変化していくかを見ていきましょう。
加齢にともなう体や機能の変化
運動機能
加齢にともない、筋肉量は減少していきます。この筋肉量の減少は20代半ばから始まるとされています*2。
筋肉量が減ると、筋力も落ちてきます。筋力のピークは20~30代で、50歳代になると低下の割合が大きくなっていきます。さらに、年齢を重ねると素早く筋力を発揮することも難しくなってきます*3。
ただし、運動機能の低下は加齢だけではなく、体が動かさないことも原因と考えられています*2。
知覚機能
年をとると、視覚や聴覚も変化します。
加齢にともなう視覚変化としてよく知られているのが、いわゆる「老眼」です。近くの物が見えにくくなる症状は、40歳代以降から始まるといわれています。水晶体が濁り、視力低下をきたす白内障は、50歳代くらいからみられます。視神経の障害である加齢黄斑変性は、50歳以上になると100人に1人の割合で発症するといわれています*4。
聴覚は、40歳代以降から高音域が聞きづらくなってきます。難聴の有病率は60歳代前半までは徐々に増加しますが、65歳以降になると一気に増加します*4。
認知機能
記憶、思考、判断などの情報を収集・処理する高次脳機能の加齢にともなう変化は、一様ではありません。
例えば、学習や計算、記憶、短時間での情報処理、新しいことに対する処理能力などに必要な能力は、30歳くらいがピークとされ、65歳を越えると比較的早く低下していきます。一方、知識や経験に基づく理解や判断能力は、30歳以降も緩やかに上昇を続け、65歳以降もあまり低下しません*5。
仕事への影響が出やすい機能
仕事への影響が出やすい機能は、加齢にともなう衰えが避けられない運動機能と知覚機能です。
独立行政法人労働政策研究・研修機構が実施した調査では、認知機能に関連する作業の適性能は、中高年齢者であっても20 歳代・30 歳代とほぼ同じかやや低い程度にとどまっています。他方、運動機能・知覚機能に関する項目では、50歳代・60歳代で適性能が低いという結果になっています*6。
なお、各企業においても高齢従業員に期待する役割は運動機能・知覚機能に関連する項目ではなく、知識や経験に基づく助言や顧客対応などとなっています(下図)。
つまり、多くの企業では加齢にともなう機能変化に配慮し、適切な業務変更が行われていることがうかがわれます。
体力・パフォーマンス維持のために取り組むべきこと
企業側の配慮があるとはいえ、若い頃と同じように第一線で働きたいという強い思いを抱いている方も少なくないでしょう。そこでポイントとなるのが、加齢にともなう各機能の変化を最小限に抑えることです。
もっとも、知覚機能の加齢変化を予防することは簡単ではありません。しかし、運動機能の加齢変化は適度な運動習慣を取り入れることで進行を緩やかにすることができます。
厚生労働省では、成人を対象とした運動プログラムとして有酸素運動と筋力トレーニングを組み合わせることをすすめています。特に筋力トレーニングは筋肉量を増加させて筋力アップが図れるだけではなく、心血管疾患の予防にも良い影響を与えます。
運動プログラムの方法
厚生労働省の「標準的な運動プログラム」のうち、「成人を対象にした運動プログラム」は以下のとおりです。
有酸素運動
筋力トレーニング
なお、普段あまり運動していない人が急に運動を始めると、ケガや心血管系の事故のリスクが高くなります。運動習慣がない場合は強度の低い運動を短時間行うことからスタートして、慣れてきたら少しずつ時間を伸ばしていきましょう。運動強度を上げるのは、運動開始から4~6週間ほど経ってからにしてください*7。
体力維持のための運動は「無理のない範囲」で
厚生労働省の「成人を対象にした運動プログラム」を実施して体力を維持するためには、週に数回は少なくとも20分以上運動をしなければなりません。
しかし、忙しい毎日のなかで運動のためだけに時間をとることが難しい人も多いと思われます。そのような場合は、日常生活の中で意識的に体を動かすようにしましょう。例えば、
- 車での移動をやめて徒歩や自転車での移動を増やす
- 昼休みに少し離れたコンビニエンスストアまで買い物へ行く
- エレベーター・エスカレーターではなく階段を利用する
- 歩幅を広くして早歩きをする
- 仕事や家事の合間にストレッチをする
- テレビを見ながら・掃除をしながら体を積極的に動かす
などのちょっとした運動でも、継続して行えば体力アップが期待できます*8。
体力の維持のために無理をするのは本末転倒です。さまざまな運動のなかから取り組みやすいものをいくつか見つけ、長期間続けることが体の衰えを防ぐコツです。
運動習慣を身に付ければ生活習慣病の予防にも役立つため、健康寿命を延ばすことにもつながります。意識して体を動かし、体力の維持・向上を目指しましょう。
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【エビデンス】
*1 独立行政法人労働政策研究・研修機構「職場における高年齢者の活用等に関する実態調査」
*2 e-ヘルスネット「サルコぺニア」
*3 池添冬芽「加齢に伴う運動機能の変化」理学療法学.2021,48(4),p.446-452
*4 田口孝行,他「加齢に伴う感覚機能の変化」理学療法学.2021,48(3),p.343-349
*5 神﨑恒一「加齢に伴う認知機能の低下と認知症」日本内科学会雑誌.2018,107(12),p.2461-2468
*6 独立行政法人労働政策研究・研修機構「資料シリーズNo.169全文」p.122
*7 e-ヘルスネット「成人を対象にした運動プログラム」
*8 SMART LIFE PROJECT「身体活動・運動」
【著者】中西 真理
公立大学薬学部卒。薬剤師。薬学修士。医薬品卸にて一般の方や医療従事者向けの情報作成に従事。その後、調剤薬局に勤務。現在は、フリーライターとして主に病気や薬に関する記事を執筆。