会社の技術やノウハウなどの営業秘密に触れながら仕事をするエンジニアは、退職時に会社との間で機密保持契約を締結するか、または機密保持に関する誓約書を会社に提出するのが一般的です。
機密保持義務に違反した場合、会社から巨額の損害賠償を請求されるおそれもあります。エンジニアの方が転職する際には、機密保持義務の範囲を正しく理解しつつ、前職の会社との間でトラブルを発生させないように努めましょう。
今回は、エンジニアが転職時に注意すべき機密保持義務について、トラブルを回避するための留意点や、実際にトラブルに巻き込まれた場合の対処法などをまとめました。
目次
退職するエンジニアに機密保持を誓約させる目的
会社が退職するエンジニアに対して、機密保持を誓約させる目的は、会社の営業秘密の流出を防止することにあります。
IT企業では、新サービスや新技術の開発をエンジニアに担当させ、他社との差別化を図って業績の向上を試みます。その一方で、エンジニアの人材流動性は高く、比較的短期間で他社へ転職してしまうケースも多いのが実情です。
エンジニアが転職する際に、業務上知り得た会社の技術やノウハウに関する情報を他社へ持ち出されてしまうと、会社の競争優位性が失われます。また、取引に関する情報が流出した場合、取引先に迷惑をかけてしまう事態にもなりかねません。
そこで、エンジニアが転職する際に、法的なペナルティを伴う機密保持義務を課して、会社の営業秘密の流出リスクを最小限に抑えることが意図されているのです。
機密保持の対象となる「機密情報」の内容・範囲
機密保持の対象となるのは、機密保持契約書や誓約書の中で定義される「機密情報」です。「秘密情報」など別の定義語が用いられる場合もありますが、意味は同じです。
機密情報の範囲は、定義の内容によって異なるため、契約書の締結前・誓約書の提出前によく確認する必要があります。
機密保持契約書や誓約書のひな形は、会社が用意するケースが大半のため、機密情報の範囲も広範に設定されがちです(例:「労働者が業務上知り得た一切の情報」など)。
エンジニアとしては、機密情報の定義があまりにも広範なものとなっている場合には、会社に修正を求めることが望ましいでしょう。
仮に会社が修正を受け入れず、そのままサインせざるを得ない場合でも、あまりに広範な機密保持義務の範囲は、限定的に解釈される可能性が高いと考えられます。
具体的には、顧客リスト・ノウハウ・具体的な取引やプロジェクトの内容など、会社特有の情報については、機密保持義務の対象となります。
その一方で、エンジニアとしての汎用的な技術(コーディング等)を活用したり、仕事上知り合った人と退職後に協働したりすることは、原則として秘密保持義務の対象外と考えられます。ただし、仕事上知り合った人との協働については、契約上の競業避止義務等に抵触しないかについて別途確認が必要です。
エンジニアが犯しがちな機密保持義務違反のパターン
エンジニアが会社を退職した後で、問題になりがちな機密保持義務違反のパターンを4つ見てみましょう。
リリース前のサービスに関する情報を、転職先に伝えてしまう
前職の会社においてリリース準備中のサービスに関する情報を、転職先の役員や従業員に対して喋ってしまうケースがあります。
転職後の会社の利益になればと思う気持ちは理解できますが、前職の会社との関係では、明らかな機密保持義務違反に当たるので要注意です。
自身が関与したプロジェクトの内情を、転職先に伝えてしまう
「前の会社ではどういう仕事をしていたんだ?」などと聞かれて、前職で関与したプロジェクトの内情を、転職先の役員や従業員に対して伝えてしまうケースがあります。プロジェクトの内情に関する情報は、原則として機密保持義務の対象となるため、転職先の関係者に伝えてはいけません。
特に、懇親会などのカジュアルなコミュニケーションの場では、注意力が緩んで上記のような機密保持義務違反を犯してしまうおそれがあるので要注意です。
転職活動時に、非公開のプロジェクト実績を開示してしまう
エンジニアが転職活動をする際に、自身のスキルをアピールするため、前職で関与したプロジェクトの内容を、転職先に対して具体的に開示するケースも見受けられます。
前職の会社のホームページなどで公開されている範囲の情報であれば、転職活動の際に開示しても問題ありません。しかし、非公開のプロジェクト実績を開示することは、前職の会社との関係で機密保持義務違反に当たる可能性が高いので注意が必要です。
業務ツールやマニュアルをコピーして持ち出してしまう
エンジニアの業務を円滑化するため、会社が独自に業務ツールやマニュアルを開発・整備している場合があります。エンジニアとしては、前職の会社で活用していた業務ツールやマニュアルを、転職後にも活用したいと思う場合もあるでしょう。
しかし、業務ツールやマニュアルは、会社の営業秘密に該当するため、機密保持契約書(誓約書)に基づいて持ち出しが禁止されます。特に、ファイル複製の記録が残るシステムを会社が採用している場合には、後で持ち出しが発覚して大問題になるおそれがあるので気を付けましょう。
機密保持義務に違反した場合、損害賠償請求を受ける可能性も
エンジニアが機密保持義務に違反した場合、前職の会社が被った損害の賠償を請求されるおそれがあります。
特に、顧客リストや技術・ノウハウの流出は、前職の会社に数千万円・数億円単位の損害を与えることもあり得ます。機密保持義務が認められる場合、原則として損害全額を賠償しなければなりません。
エンジニアによる機密保持義務違反は、上記のような重大な事態をもたらし得るものと理解しておきましょう。
機密保持義務違反に関しては、弁護士のアドバイスを求めるべき
機密保持契約書(誓約書)の解釈について疑問点が生じた場合には、弁護士に相談すればアドバイスを受けられます。
前職の会社で獲得した知識・技術・人脈を活用することは、エンジニアとして活躍するうえでは必要不可欠です。
他方で、機密保持義務違反の損害賠償リスクは大きいため、どの範囲であれば知識・技術・人脈を活用できるのかを正しく知ることも大切になります。そのためには、弁護士によるアドバイスが参考となるでしょう。
また、万が一前職の会社から機密保持義務違反の責任を追及された場合にも、弁護士に相談すれば、協議や法的手続きへの対応を代行してもらえます。巨額の損害賠償を強いられる事態を回避するためにも、早期に弁護士へ相談することをお勧めいたします。
弁護士に相談するには、知人や家族に紹介してもらう方法、インターネット上で検索する方法のほか、弁護士会や法テラスに紹介を依頼する方法も考えられます。
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【エビデンス】
参考:全国の弁護士会・弁護士会連合会|日本弁護士連合会
参考:法テラスウェブサイト
【著者】阿部 由羅
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。
HP:https://abeyura.com/
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