好きを仕事にすると続かない?離職理由から考える労働条件の大切さ

「本当にやりたいことはこれじゃない。自分にはもっと合う仕事があるはずだ。好きなこと、夢中になれることを仕事にしよう!」

こう考えて転職に踏み切る人は多い。
前職ではできなかった好きなことを仕事にして、今度こそ楽しく働きたい……そう思うのだ。

その気持ちはよくわかる。
わたし自身、文章を書くのが好きでライターをやっているから。

でもいざ職を選ぶときに一番大切なのはきっと、「好きかどうか」ではない。
もちろんそれも大切だけど、長期的に働けるかどうかは、結局のところ「適した条件かどうか」で決まるのだ。

離職理由1位は仕事内容ではなく「賃金以外の労働条件」

2019年、転職者は過去最多となり、351万人を記録した。現在はコロナ禍で転職市場が変化しているだろうとはいえ、一昔前よりも転職が身近な選択肢になっていることはまちがいない。

気になる転職理由はというと、家庭や健康面の事情、結婚や出産、介護などを抑えて、1番多いのは「より良い条件の仕事を探すため」となっている。そう答えたのは、実に127万人だ。*1

ではその「条件」とは、なにを指しているのだろう?

新たな職を探すのであれば、前職の不満が解消される場所で働きたいと思うもの。では前職の不満を調べてみればいい。というわけで、離職理由の統計を見てみよう。

離職理由のトップは「自己都合」の75.5%。内訳は「労働条件(賃金以外)がよくなかったから」が27.3%で1番多く、「満足のいく仕事内容でなかったから」が26.7%、「賃金が低かったから」が25.1%と続く。*2

賃金も労働条件に含めて考えれば、「仕事内容」よりも、「労働条件」を理由に退職する人のほうが圧倒的に多いのだ。

意外だろうか?
いや、わたしは驚かなかった。むしろ「だろうなぁ」と納得する。

だって、仕事を続けるのであれば、「好きなこと」より「条件」のほうが大事だから。

大学もバイトも辞めたわたしの最後の選択肢がライターだった

わたしは文章を書くのが好きでライターをやっているけど、きっかけはむしろ「それしか選択肢がなかったから」だった。

ドイツに来てワーホリするも1年でビザが切れるので、とりあえず大学に入学。しかし政治専攻という外国人ほぼゼロの学部になかなか馴染めず、分厚い言葉の壁に悩まされる毎日。

大学辞めようかな……。でも辞めるとビザ切れちゃうしな……。

悩みつつ大学に行かなくなったタイミングで、甲状腺疾患のひとつであるバセドウ病を患っていることが判明。しかもかなりの重度。カフェバイトも辞めることとなった。

体調を考えると就職するという選択肢もないし、そもそもドイツでの就活は1回失敗しているからそんな気力もない。
かといってドイツでニートをしていたら、ビザが失効してしまう。お金もない。どうしたものか……。

にっちもさっちもいかない状態で暇つぶしがてらはじめたのが、ブログだった。日々の鬱憤を書きなぐっていただけだが、ありがたいことに、ファンだと言ってくださる方たちが現れる。

そこで、「ライターとして記事を書く」という打開策を思いついた。
ブログの記事をいっぱい読んでもらえるのであれば、それでお金を稼げるんじゃない?と。

これが、わたしがライターになったきっかけである。

条件が悪ければ働き続けられないという当たり前の現実

文章を書くのは、小さいころから好きだった。中学校の卒業文集で、将来の夢は「小説家」と書いたぐらいだ。

とはいえ、文章でメシを食おうなんて、現実的に考えたことはなかった。そんなの無理でしょ、って思ってたし。

そんなわたしが異国の地でフリーライターになったのは、むしろそれくらいしか選択肢がなかったからだ。

チームワークが苦手で個人作業が得意、バセドウ病の治療中で体力なし、海外在住で今後もドイツに住みたいがドイツでビジネスするほどの根性はない。なおかつ家が大好き。

そんなわたしにとって、ライターという仕事はまさに天職だった。

記事を書くのは自分ひとりだし、体調と相談しつつ家でマイペースに執筆すればいいし、ドイツに住みながら働ける。最高。

もちろん、大前提として「文章を書くのが好き」ではある。

でも、たとえば出版社や新聞社で文章に携わる仕事をしたとしても、苦手な満員電車に揺られ、いろんなところでいろんな人と会って、毎晩へとへとになって帰宅する生活を、わたしは続けられるだろうか。

いや、無理だね。絶対に無理。

多くの人は、いくら好きでも、条件が合わない限り続かない。
だって、疲れちゃうから。

わたしのまわりにも、
「仕事は楽しかったけど結婚したから残業が少ない会社に転職した」
「やりがいはあったけど本社移転で通勤時間が長くなって辞めた」
「いい人ばっかりだけどぶっちゃけ給料が低すぎていま職探ししてる」
なんて人はたくさんいる。

いくら好きな仕事をしても、人間関係に恵まれても、労働時間や賃金といった条件が悪ければ、仕事は続かない。

冒頭の離職理由の統計を見てもわかるとおり、現実はキレイゴトだけではどうにもならないのだ。

「もっと自分に合う仕事があるのでは」と永遠に満足できない病

そのうえでさらにわたしは、「好きを仕事にする」危うさをお伝えしたい。

「好き」という気持ちは一時的、それでいて際限のない不安定な感情だ。そんなものを、そこまで信頼していいものだろうか。

たとえば恋愛において、好きで好きでしょうがなかった憧れの人と付き合えたとする。最初は毎日楽しくて、まるで夢のようなめくるめく毎日を送れるだろう。

しかし次第に、理想と現実のギャップに戸惑い、イライラし、失望していくんじゃないだろうか。

「デートのときはあんなにかっこよかったのに家ではボロボロのジャージを着ていた」
「実は金遣いが荒くてしょっちゅうムダな買い物をしている」
「みんなに優しいけどウラでは愚痴と悪口ばかり」

などなど……。

そんな現実を知り、「わたしはこの人のどこがそんなに好きだったんだろう?」と我に返り、「もっと好きな人が現れるんじゃないか?」「もっといい人を探すべきじゃないか?」と気持ちが揺れていく。

こんなの、よくあるシチュエーションじゃないだろうか。
「好き」という気持ちが「一時的」で「際限がない」とは、こういう意味だ。

そして「好き」を基準に仕事を選べば、同じようなことが起こりうる。

好きな仕事に就けたとしても、自分がやりたい作業だけやっていればいいわけではない。好きだからといって、望むような結果が出せるともかぎらない。

そして自分自身に問うのだ。
「自分がやりたかった仕事は本当にこれなのか?」と。

「好きだから条件が悪くてもいい」と仕事を選んだら、「好き」が揺らいだときそこには「悪条件」しか残らなくなる。

「条件が良いなかで気に入ったものを」と仕事を選んだら、たとえ多少気に入らないことがあっても「好条件」が残る(労働条件自体はそうそう変わるものではないからね)。

どちらが長続きするかを考えると、やっぱり後者じゃない?というのが、わたしの主張だ。

仕事選びで1番大事なのはなんといっても「労働条件」

1日8時間、週5日もやるのだから、どうせなら好きなことをしたい。
まったくもって同意だし、わたしだってそう思う。

でも自分の「好き」を過信しすぎて判断基準の軸にしてしまうのは、ちょっと不安定すぎる。「好き」なんて感情、一時的で際限がないからね。

現実的な「条件」を満たしていないと、結局は長く働けない。

だから職を選ぶときは、まず譲れない条件を書き出して優先度をつけ、それをある程度満たす職場のなかから「1番好きなもの」にすることをおすすめしたい。

そっちのほうが、きっと、うまくいくから。


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【エビデンス】
*1 総務省統計局「増加傾向が続く転職者の状況 ~ 2019 年の転職者数は過去最多 ~
*2 厚生労働省「平成 27 年転職者実態調査の概況」p20


【著者】雨宮 紫苑
ドイツ在住フリーライター。Yahoo!ニュースや東洋経済オンライン、現代ビジネス、ハフィントンポストなどに寄稿。著書に『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)がある。
Twitter:@amamiya9901