女性の転職は男性よりも難しいという実情は、「なんとなく」感じている人は多くても具体的な現状はあまり見えてきません。
出産・育児があるから難しそう、というイメージが強いかと思いますが、実際にはどのような難しさがあるのでしょうか。
数字とデータを参考にしながら、女性が転職を考えるときに注意すべき点を確認していきましょう。
目次
女性の就業についての基本データ
厚生労働省の雇用均等基本調査(令和元年度)によると、企業の正社員・正職員の男女比率は下のようになっています(図1)。
正社員は女性が4人に1人という割合です。やはり低い水準であることがわかります。
そして今般のコロナ禍で「女性の貧困」が大きな問題としてクローズアップされています。
実際、1回目の緊急事態宣言が出された2020年4月以降で解雇や雇い止め、休業、労働時間の半減など雇用に大きな変化が起きたのは、非正規の女性で最も多くなっています(図2)。
このように、「女性には非正規雇用が多く、コロナ禍で多大な苦労を強いられている人が多い」というのは、イメージだけでなく事実であることもわかります。
一方で、日本の労働市場は人手不足が続いているため、政策的には女性の労働力が期待されています。
20代後半から40代の子育て世代の女性では、就業希望者に対し、実際に就業している人が少ない現象がみられますが、これは「M字カーブ」問題と呼ばれています。
これを解消することで、日本の労働力不足を補えるという考え方があります(図3)。
こうした状況を踏まえ、女性の転職についてみていきましょう。
女性の転職と昇進
転職者の数は増加傾向にあり、2019年には過去最高を更新しました。
男女別・年齢別に見ると下のようになっています(図4)。
転職者数は、若干ではありますが女性の方が多い点には注目です。
また、転職の理由を「より良い条件の仕事を探すため」としている人が多く、コロナ禍以前の「売り手市場」を反映しているとも言えます(図5)。
ただ、コロナの影響をきっかけに、就職・転職市場は「買い手市場」に変化しました。
その中で女性が転職・キャリアアップをうまく進めていくためには、上手に企業を見つけたいところです。
女性活躍に積極的な企業かどうかは、実は採用人数だけを見ていてもわかりません。以下の点をチェックしましょう。
転職先の選び方①女性管理職・昇進の割合
昇進だけがキャリアアップとは限りませんが、管理職に女性をどの程度登用しているかは女性にチャンスの多い企業かどうかのひとつの目安になります。
産業別に女性昇進の割合を見るとこのようになっています(図6)。
課長相当職以上の女性役員の割合を見ると、最も多いのが医療・福祉分野です。
次いで教育・学習支援、生活関連サービス・娯楽といった業種で女性昇進の割合は多くなっています。
また、企業規模別に役職昇進者に占める女性の割合を見ると、このようになっています(図7)。
大企業の方が女性の昇進が多そう、というイメージがあるかもしれませんが、実はそうとも言い切れないことがわかります。
1,000~4,999人規模の企業で、全体的に昇進者に占める女性の割合が少ない傾向にあり、それ未満の企業規模になると女性の昇進が増えているという現象が起きています。
背景には以下のような事情があります。
女性活躍が進まない理由は、企業規模によっても違います。
労働政策研究・研修機構の調査によると、役職者の女性割合が低い理由は企業規模別にこのようになっています(図8)。
データは2014年のものなので、現在ではやや改善が進んでいると考えられるものの、
「女性の継続率が低い」
「ロールモデルが存在しない」
という理由が1,000人以上の企業で突出して多くなっています。
大企業ならではの「前例主義」のようなものがあるかもしれません。
また、「職務の難易度が増す・全国転勤を伴う」ため「女性が希望しない」という理由も挙がっていますが、そうではない女性も一定数、存在するでしょう。
少なくとも育児や介護が伴う場合、転勤については企業努力である程度、配慮する必要があるのではないでしょうか。
優秀な人材を求める企業であれば、本当に働く人の目線になって制度を構築することが求められる時代と言えるでしょう。
こうした柔軟性のある企業かどうかを、働く女性は見極める必要があります。
なお、大企業の中には、「地域限定の採用コース」から入社し、「転勤も伴う総合職」へと転籍を可能にしているところもあります。
育児などが落ち着いた段階でチャレンジできるように配慮した採用形態です。
転職先の選び方②企業の人材戦略と女性活躍の関係性
また、労働政策研究・研修機構の調査報告書では、企業の人材戦略と女性管理職の数について、興味深い相関関係が明らかになっています(図9)。
女性の課長昇進が少ない企業の特徴として、
- 新卒者の長期雇用を重視している
- 脱年功序列的役職登用を重視していない
- 非正規社員の正社員転換を重視していない
- 非正規社員の職域拡大を重視していない
といった点が挙げられます。
特に、新卒を年功序列で長期雇用するという「従来の日本型雇用」を維持している企業は流動性がなく、人事が硬直している傾向にあると言えるでしょう。
女性の課長昇進が比較的多い企業の特徴はその逆です。
転職先の選び方③認定マーク獲得の有無
そして知っておきたいのが、女性活躍の一定基準を満たした企業に対して政府が付与している各種認定です。代表的なものは3つあります。
①なでしこ銘柄
経済産業省と東京証券取引所が共同で選定、発表している上場企業です(図10)
令和元年度は「なでしこ銘柄」に46社、「準なでしこ」に19社が選定されています。
②くるみん
従業員と仕事と子育ての両立について一定の用件を満たした企業を、子育てサポート企業として厚生労働省が認定するものです(図11)。
育児休暇の取得率について3つの基準があります。まず、
- 女性の育児休業取得率が75%以上、かつ全労働者の月平均時間外労働が60時間未満(くるみん、プラチナくるみん共通基準)
その上で、くるみんの場合は
- 男性の育児休業率が7%以上
- 男性の育児休業+育休目的休暇取得が15%以上
プラチナくるみんの場合は
- 男性の育児休業取得率が13%以上
- 男性の育児休業+育児目的休暇取得が30%以上
などを見る認定制度です。
認定企業は、厚生労働省のホームページから検索できます*1。
③えるぼし
女性活躍推進法に基づき、厚生労働省が企業を審査する制度です。一定基準を満たした上で、女性の活躍推進に関する状況などが優良な企業を認定しています(図12)。
こちらは、
- 採用
- 継続就業
- 労働時間等の働き方
- 管理職比率
- 多様なキャリアコース
の5つの項目について、実績を毎年公表することが義務付けられています。
こちらも、認定企業を厚生労働省のホームページから探すことができます*2。
まとめ
ここまで、女性の就業や転職について、各種データを交えて紹介してきました。
女性の活躍については、実は海外ではこんな調査結果があります。
世界的コンサルティング会社であるアメリカのマッキンゼー・アンド・カンパニーは、女性役員の比率の高い企業は、女性役員がいない企業に比べてパフォーマンスが高いという分析結果公表しています*3。
このような事情を認識している企業がどのくらいあるかは不明ですが、少なくとも、理解している企業だとしたら伸び伸びと働ける環境が作られているでしょう。
そしてベストなのは、やはり企業を訪れたときにオフィスの様子を見ることです。
いくら取り組みをアピールしていても、認定マークをつけていたとしても、形式だけのものでは意味がありません。
実際のオフィスの景色を見れば、男女が対等に仕事をしているかどうかは分かるものです。
また、女性管理職がいる場合、そのバックヤードについても知ると良いでしょう。
やはり女性にとって出産・育児は人生の中で最大とも言えるイベントですから、そうした期間を経て管理職になっている女性のいる企業は、能力をフェアに見極めているということです。
なお、今般のコロナウイルス流行の影響で、リモートワークの普及など働き方が大きく変わりました。
これを機に積極的にリモートワークやフレックスを導入・推進しようとしている企業は柔軟性のある企業と言えます。
逆に、これを機に変化できない企業は様々な面で硬直しているとも言えるでしょう。
出産・育児にかかる時間や負担は男女が同等に担うのが当然、能力のある人は男女問わず適材適所で応じていく、そのような姿勢がある企業かどうかは、随所に現れるものです。
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*1「しょくばらぼ 子育てサポート企業認定『くるみん・プラチナくるみん認定』」厚生労働省
https://shokuba.mhlw.go.jp/published/special_01.htm
*2「しょくばらぼ 女性活躍推進企業認定『えるぼし・プラチナえるぼし認定』」厚生労働省
https://shokuba.mhlw.go.jp/published/special_02.htm
*3「女性活躍の加速に向けて」内閣府資料
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2020/0310/shiryo_08.pdf p1
【著者】清水 沙矢香
2002年京都大学理学部卒業後、TBS報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、科学・教育行政その後、経済部記者として主に世界情勢とマーケットの関係を研究。欧米、アジアなどでの取材にもあたる。ライターに転向して以降は、各種統計の分析や各種ヒアリングを通じて、多岐に渡る分野を横断的に見渡す視点からの社会調査を行っている。
Twitter:@M6Sayaka