私たちの仕事はいずれAIによって奪われるのではないか?という議論は度々沸き起こってきました。
その中でも大きな反響を呼んだのは第3次AIブーム後の2013年に、オックスフォード大学のフレイ博士が発表した論文です。
この論文の特徴は、「あと10~20年でAIに奪われる確率が高い」仕事とそうでない仕事が具体的に紹介されていたことです。
まずはこれらの業種について紹介しましょう。
同時に、AIが「得意とするところ」「苦手とするところ」をはっきりと知ると、AIと共存・共栄できる働き方を見つける糸口にもなりそうです。
AIに奪われる仕事、奪われない仕事TOP30
フレイ博士の論文では、今後AIによって奪われる可能性が高い仕事とそうでない仕事として、それぞれ以下のようなものが挙げられています(図1、2)。
<AIに奪われる確率が高い仕事>
1位 | 電話販売員(テレマーケター) | 16位 | 受注係 |
2位 | 不動産登記の審査・調査 | 17位 | ローンの融資担当者 |
3位 | 手ぬいの仕立て屋 | 18位 | 自動車保険鑑定人 |
4位 | コンピューターでのデータ収集・加工 | 19位 | スポーツの審判員 |
5位 | 保険業者 | 20位 | 銀行の窓口係 |
6位 | 時計修理人 | 21位 | 金属や木材などの腐食加工・彫刻業者 |
7位 | 貨物取扱人 | 22位 | 包装機・充填機のオペレーター |
8位 | 税務申告代行者 | 23位 | 調達係(購入アシスタント) |
9位 | フィルム写真の現像技術者 | 24位 | 荷物の発送・受取係 |
10位 | 銀行の新規口座開設担当者 | 25位 | 切削加工のオペレーター |
11位 | 図書館司書の補助員 | 26位 | 金融機関の信用評価員 |
12位 | データ入力作業員 | 27位 | 部品販売員 |
13位 | 時計の組立・調整工 | 28位 | 損害保険の清算人・査定社・調査員 |
14位 | 保険金請求・保険契約代行者 | 29位 | 営業販売員・配達員 |
15位 | 証券会社の一般事務員 | 30位 | 無線通信士 |
<AIに奪われない確率が高い仕事>
1位 | レクリエーション療法士 | 16位 | 教育コーディネーター |
2位 | 整備・設置・修理の第一線監督者 | 17位 | 心理学者 |
3位 | 危機管理責任者 | 18位 | 警察や刑事の第一線責任者 |
4位 | メンタルヘルス・薬物ソーシャルワーカー | 19位 | 歯科医 |
5位 | 聴覚訓練士 | 20位 | 小学校教師(特別支援教育をのぞく) |
6位 | 作業療法士 | 21位 | 医学者(疫学者をのぞく) |
7位 | 歯科矯正士・義歯技工士 | 22位 | 小中学校の教育管理者 |
8位 | 医療ソーシャルワーカー | 23位 | 足病医 |
9位 | 口腔外科医 | 24位 | 臨床心理士・(スクール)カウンセラー |
10位 | 消防・防災の第一線監督者 | 25位 | メンタルヘルスカウンセラー |
11位 | 栄養士 | 26位 | 織物・衣服のパタンナー |
12位 | 宿泊施設の支配人 | 27位 | 舞台美術・展示美術のデザイナー |
13位 | 振付師 | 28位 | 人事マネージャー |
14位 | セールスエンジニア(技術営業) | 29位 | レクリエーションワーカー |
15位 | 内科医・外科医 | 30位 | 教育研修マネージャー |
(出所:「別冊Newton ゼロからわかる人工知能 増補第2版」p80-81)
上の30種の仕事はAIに奪われる確率が98%以上、下の30種の仕事はAIに奪われる可能性が1%以下と推定されています*1。
「奪われる可能性が低い」仕事としてはカウンセラーなど人の心理に関わるもの、あるいは「責任者・監督者」が多く見られます。
現場ではAIが働き、人間がその指揮監督者や責任者になる、という未来は想像に難くありません。
AIが得意なこと・苦手なこと
AIの強みはなんといっても、情報処理の速度、正確性、一貫性(機械は疲れないのでミスをしない)という点です。
よって、一定の反復作業や複雑な計算に関しては、人間より優位であると言えるでしょう。
また、記憶力も抜群です。
しかし、AIにも苦手分野があります。その中に「フレーム問題」と「シンボルグラウンディング問題」があるでしょう。
何が苦手なのか見てみることで、人間に求められる性質が分かります。
フレーム問題
新しいことにチャレンジしようとするとき、様々なリスクを考えすぎて行動に移せない性格の持ち主は少なからずいるものです。
AIは、そういった性格の人以上に記憶力や要素の組み合わせを知識として多く持っている一方で、ミッションには厳密に従おうとします。
「絶対に事故を起こさない自動車」を作ることはできるでしょうか?
極論、それは「動かない車」ということになってしまいます。
このような実験があります*2。
人の代わりに危険な作業をするロボット1号機に、ひとつのミッションを与えます。
1号機の予備のバッテリーをしまってある部屋に時限爆弾が仕掛けられています。部屋には一台のワゴンがあり、バッテリーはその上に置かれています。この部屋からバッテリーを救出するという仕事です。しかし、時限爆弾もそのワゴンの上に乗っているという状態です。
人間であれば、爆弾をワゴンから降ろし、バッテリーだけを持ち出す判断をするでしょう。
しかしこの1号機は、ワゴンと一緒に爆弾も持ち出してしまいました。つまり、「ワゴンの上のものを持ち出せば問題は解決する」というシンプルな行動を取ったのです。
そこで、新たに改良版ロボットが開発されました。「副産物」を認識し、今度はその影響を考慮するよう教えました。
すると、この改良版ロボットは、部屋の中には入ったものの、そこで考え込んでしまったのです。
その結果、「ワゴンを部屋から出しても壁の色は変わらない」という突拍子もない結論に至り、次にワゴンを引けば車輪が回転するだろうという推測が正しいかどうかについて考え出したのです。
そうしているうちに、爆弾が爆発してしまいました。
そこで、必要な行動に関係のあるものとないものの区別を教えたロボットが開発されました。
するとロボットは、部屋に入ることすらしませんでした。
状況を取り巻く一つ一つの要素について、そもそも「関係があるか、ないか」を証明するという計算に取りかかってしまい、膨大な情報処理に迫られたからです。
すると、驚いたことに、 このロボットは、部屋に入ろうともせず、 じっとうず くまって考えていた。設計者たちは 「何かしろ」 と叫んだ。R2D1は 「してますよ」 と答えた。 「私は、無関係な帰結 を探し出してそれを無視するのに忙しいんです。そんな帰結が何千とあるんです。私は、関係のない帰結を見つけると、すぐそれを無視 しなければならないもののリス トにのせて、 ……」
また爆発 してしまった。
<引用:「『フレーム問題』の解消ー人工知能研究への提言ー」京都大学学術情報リポジトリ> p14
滑稽なように感じるかもしれませんが、「暗黙の了解」を持たないAIの中では、このような情報処理が行われているのです。
教えなければ行動が取れない、教えすぎてもまた行動できない。AIの苦手なことのひとつです。
シンボルグラウンディング問題
さて、Webサイトを閲覧しているときに、「何かお困りですか?」とポップアップ表示させる「チャットボット」を見かけることが増えました。
私たちは困りごとに関するキーワードを入力します。すると、AIはある程度の質問には答えてくれるものの、時折的外れな回答をすることがあります。
これは、AIが「与えられた言葉の本当の意味を認識しているわけではない」からです。
キーワードに関連した回答を表示しているにすぎないのです。
会話の中で、「シマウマ」という言葉がどうしても出てこなかったとき、私たちは「縞模様のウマみたいな動物って何だったっけ?」と人に質問し、「シマウマだよ」と教えてもらうことでしょう。
しかし、AIにはこの認識はできません。「縞模様」と「ウマ」は別々に言葉として知っていても、シマウマというものを計算機は理解できないのです。「概念の足し算」のようなものが苦手です。
AI時代の人間に求められる素質
AIというと、何かと「人間を超えた、人間より優れた存在」と感じてしまう人は多いものです。
しかし、できないことも多くあります。これから進行するであろうAI時代を生きていく上では”計算機にできないこと”、を身につけていく必要があるでしょう。
まずは論理的思考力です。こう言うと、機械の方が論理的なのではないか?と思ってしまうかもしれませんが、同じ結論にたどり着くにも、人間とAIでは違う思考回路をたどっています。
かつ、AIは導き出した結果の「根拠」を、人にわかりやすく説明することはできません。不可能ではありませんが、膨大な演算の過程を見せてくれても、人が追いかけるのにはあまりに時間がかかりすぎます。
物事を論理的に整理し、人に伝える能力は今後ますます必要とされるでしょう。
そして、人間ならではの柔軟性です。
指示されたことをこなすだけならもちろん、機械の方が得意です。しかし、そこに付加価値をつけて結果を出すということは人間ならではの能力です。提案力、とも言えるでしょう。
ただ、もっとも重要なのはAIに対する苦手意識をなくすことでしょう。
人間はAIに仕事を奪われてしまうのか、支配されて仕事をしなければならないのか、あまりに恐れすぎるのもよくありません。
AIがあったら、自分の仕事のどんなところを任せて、どんな部分を自分は強みにしていこうか?
AIをあくまで「仲間」として捉え、ワクワクしながら考えられる心を持つことが大切です。
こうした許容範囲の広さはAIに限らず、ダイバーシティ時代の人材として重要な意味を持ちます。
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*1 「別冊Newton ゼロからわかる人工知能 増補第2版」p81
*2「『フレーム問題』の解消ー人工知能研究への提言ー」京都大学学術情報リポジトリ p14
【著者】清水 沙矢香
2002年京都大学理学部卒業後、TBS報道記者として勤務。
社会部記者として事件・事故、科学・教育行政その後、経済部記者として主に世界情勢とマーケットの関係を研究。欧米、アジアなどでの取材にもあたる。ライターに転向して以降は、各種統計の分析や各種ヒアリングを通じて、多岐に渡る分野を横断的に見渡す視点からの社会調査を行っている。
Twitter:@M6Sayaka