有効求人倍率が高まり、仕事を探しやすくなっている中で、大卒者の3年以内の離職率は30%を超える状況が続いています。*1*2
早期離職は、採用・育成への多大な投資が無駄になってしまうだけでなく、企業イメージの低下や、正常な事業運営にも影響を及ぼします。
そんな早期退職を防ぐ採用手法として、注目を集めているのが「RJP理論」です。
この記事では、早期離職の原因や、早期離職を防ぐRJP理論について解説していきます。
早期退職の原因
内閣府の資料によると、初職の離職理由で最も多いのは「仕事が自分に合わなかったため」の43.4%です。*3
次いで「人間関係がよくなかったため」が23.7%、「労働時間、休日、休暇の条件がよくなかったため」が23.4%、「賃金がよくなかったため」が20.7%、「ノルマや責任が重すぎたため」が19.1%と続いています。
初職の離職理由の中で最も重要な理由についても、「仕事が自分に合わなかったため」が23.0%と最も多い結果となりました。
つまり多くの人が、仕事内容や労働条件などで「思っていたのと違う」という理想と現実のギャップを抱え、離職していることが分かります。
仕事内容や労働条件は、選考や面談の時点で正しく伝えておけば、認識のズレは生まれにくいはずです。
しかし、入社後に理想と現実のギャップが生まれてしまうのは、採用側がネガティブな情報を隠さないと人が集められないと考えているからでしょう。
早期離職を防止するには「RJP理論」
早期離職を防止するためには、「RJP理論」が効果的です。
RJP理論とは「Realistic Job Preview」を略したもので、「現実的な仕事情報の事前開示」を意味します。
組織や仕事の実態について良い情報だけでなく、自社の課題や仕事の厳しさといった悪い情報も、入社前に開示することで「入社後のミスマッチを減らす」取り組みです。
アメリカのWeitzによる研究に端を発し、1970年代以降、産業心理学者のWanousを中心に理論的な発展と実証、成果と技法の研究が数多く積み重ねられており「組織と新人の適合性を高め、定着率を高める効果」が確認されています。*4
RJP理論に基づく採用を、良い情報のみを売り込む採用(伝統的な採用)と比較すると以下の図のようになります。
伝統的な採用は、求職者に対して組織や仕事の良い情報をよりよく伝えて「売り込み」、魅力を高めて応募数を確保し、企業が求める能力に見合う人を「選ぶ」ことを目指しています。
一方でRJP理論に基づく採用は、悪い情報も含めたすべての適切な情報を誠実に伝えます。
そして、その情報を理解する良質な応募者の中で、企業と応募者が互いに適合性を見極めて「選び合う」こと、応募者にも積極的に自己選択してもらうことを重視しています。
これにより、伝統的な採用が入社後に現実とのギャップから「不満・離職」を引き起こすのに対し、RJPは仕事に対する「満足感」を高め、定着を促すとされているのです。
RJP理論の具体的な効果
RJP理論には、具体的に4つの効果が期待できます。
・ワクチン効果
・スクリーニング効果
・コミットメント効果
・役割明確化効果
ワクチン効果
良い情報だけでなく、悪い情報も事前に伝えることで、企業に対する免疫(ワクチン)を作る効果があります。
企業や仕事に対する過剰な期待を事前に緩和し、入社後の期待と現実のギャップを和らげることで、「思っていたのと違う」という理想と現実のギャップを防ぐことが可能です。
スクリーニング効果
企業のリアルな情報を事前に開示することで、求職者は自分がその企業にマッチしているかを判断しやすくなります。
企業に選ばれたのではなく、適合性を判断した上で自分が選んだという意識が強くなり、入社後の定着につながります。
コミットメント効果
悪い面も含めたありのままの情報を開示することで、求職者は企業の誠実さを感じます。
その結果、自分に対して誠実に向き合ってくれた企業に愛着を持つようになり、「入社後もこの会社で頑張りたい」という帰属意欲が高まるでしょう。
また求職者は、悪い面も知った上で入社を決めているため、長く活躍してくれる人材となります。
役割明確化効果
企業が「どんな仕事を任せたいか」「どんな役割を果たしてほしいか」を具体的に伝えることで、求職者は入社後の働くイメージを描きやすくなります。
その結果、求職者は現実的な目標を持てるようになり、仕事に対する意欲の向上につながる効果があります。
RJP理論を導入するときの注意点
RJP理論導入にあたっての注意点は3つあります。
・人事部と受入部署の認識を統一する
・情報のバランスを考慮する
・既存社員との情報交換の機会を設ける
人事部と受入部署の認識を統一する
RJP理論を導入するときには、人事部と受入部署の認識を統一することが大切です。
人事部の採用担当と受入れ部署で、欲しい人物像や、任せる予定の仕事内容などの認識がズレている可能性があります。
認識がズレたまま採用活動を行うと、人は集まっても欲しい人材がいなかったり、入社後のミスマッチにつながったりします。
人事部と受入部署との連携を強化した上で、RJP理論を実践しましょう。
情報のバランスを考慮する
良い情報と悪い情報をバランスよく伝えることも大切です。
RJP理論の悪い情報も正直に伝えるという点に注目して、悪い情報を多く伝えてしまうと、求職者が魅力を感じにくくなる恐れがあります。
自社のポジティブな部分をきちんと伝えた上で、必要なネガティブ要素を適度に織り交ぜて発信しましょう。
<例>
- 繊細な仕事が求められるが、1対1での指導による手厚い教育体制を設けている
- 繁忙期は残業が多いが、やってもらった分はきちんと残業代を出す
「よく見せよう」とするのではなく、「ありのままを伝えよう」という心持ちが大切です。
既存社員との情報交換の機会を設ける
既存社員との情報交換の機会を設けることも、RJP理論として有効な手段です。
多くの求職者が入社前に知りたいと思っている「実際の仕事内容」や「残業や休日出勤の実態」「社員の人間関係」など*5も、既存社員から直接聞くことで、情報の信頼度が上がり、就職後のリアルなイメージを形成できるでしょう。
また、体験入社やインターンシップなどを行うのもおすすめです。
求職者は「どのように働くことになるのか」について感覚的な理解が得られ、企業も求職者の能力や人柄を判断できるメリットがあります。
まとめ
自社の良い情報だけでなく、悪い情報も正直に伝えることで、早期離職を防ぎ、より効果的な採用ができるようになるのが「RJP理論」です。
日本での歴史はまだ長くありませんが、アメリカでは40年以上前から研究されてきた理論で広く浸透しています。
自社で長く活躍してくれる人材を採用するためにも、人事部と受入部署の認識を統一した上で、本当に来て欲しい人材に向けて、正直な情報を発信しましょう。
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【エビデンス】
*1 独立行政法人労働政策研究・研修機構「職業紹介-都道府県別有効求人倍率」
*2 厚生労働省「学歴別就職後3年以内離職率の推移」
*3 内閣府「特集 就労等に関する若者の意識」
*4 独立行政法人労働政策研究・研修機構「採用時点におけるミスマッチを軽減する採用のあり方」P60,62
*5 マイナビニュース「入社後、「仕事内容」にギャップを感じる新入社員は6割」
【著者】髙橋 めぐみ
求人情報メディア・人材紹介等の総合的な人材サービスを提供するプライム市場上場企業(元
東証1部)に勤務。在職中に250社以上の企業を取材し、求人広告の作成等に携わる。その後、教育業界に転職。現在はこれまでの経験を活かし、人材や教育に関する記事を中心にフリーライターとして活動中。